おかぴーのビジネス・メンタルタフネスBlog

乳腺外科医おかぴーがそのなが~い診療経験と多種多様な人間との人付き合いからみた、ビジネスとメンタル・コミュニケーションについてのブログ。

ハーバードビジネスレビュー4月号医療番外編1

先日の読書会のあと、とある方面から医療に関するイノベーションの資料をいただいた。

医療改革は一般にとても困難なものであるが、

サービスに関わる部分が多いので、一度納得を得られてしまえば、

経済的には安価に、時間も短くすむことが多い。

 

ちょっとこれについて、

現場の雰囲気(おかぴーがちゃんと医者をやっていたという証拠)を

交えてお話ししようと思う。

 

その例について紹介:

 

①ナースナレッジエクスチェンジ:

 

今はもう当たり前になっている、病棟回診時の、

患者の前での申し送りのことである。

以前はナースステーションで温度板(A3サイズの天気予報グラフみたいなもの)

 

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これは電子カルテになってからのものね〜。iPadででてくる。

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ナースステーションの中央に集まってこれらを見ながら申し送りをしていたが、

病室を回ることにより患者も参加できるようになり、申し送りのミスがなくなった。

病棟回診のナースは大抵1チームで20人くらいの患者を受け持ってて、

専門科ごとに分類された患者ー病棟配置となってるのは知ってますよね。

 

そうなると当然、

似たような年齢層、似たような疾患になる。

症状や部位などを間違えやすいのだ。

かくいう自分もレジデントの頃、内分泌疾患を受け持っていたが、

12-3人受け持つと、褐色細胞腫のような特殊な疾患はせいぜい1人くらいしかおらず、あとは中高年の2型糖尿病患者である。

糖尿病患者はただ血糖が高いだけではなくて、

網膜症や足病変や狭心症がある人には

血糖コントロールを緩めにして運動は厳禁とか、

インスリンがドバドバ出まくってる人には運動を積極的に進めてインスリンもガチガチ打ちまくるとか、

同じ2型でも全然方針が違う。

(10年前の治療なので間違ってたらごめんなさい、多分今は後者にはメトホルミンを使うと思う)

そして疾患特有のキャラクターが重なり(糖尿病は生活習慣病ですから)

ホテル以上のサービス対応である。。。

だから、キャラに合わせて治療方針を考えなきゃいけないし、

あの人がこーいったあーいったなどの

クレームにも対応しないといけないわけです。

まるで高級ホテルのコンシェルジュです。

 

そんな中で伝言ゲームの情報伝達で今までやってきた、それが

そもそもおかしかった、というわけ。

 

 

②インフレクションナビゲーター:

 

癌や重大な心疾患などの大きな病気を抱えた際に、

告知を受けると、あまりにことが重大なために、

患者は重大な話に耳を傾けないことがある。

こーいう転換点(インフレクション・ポイント)で

意思疎通ミスがおこり、ひいては医療訴訟へと発展することが常だ。

これに対して、患者一人一人にケアコーディネーターを配置し説明・支援・受信の予約・質問事項の想定とそれに対する回答を担当してもらう。

 

数々の告知をしていると、

一人で来院し『乳がんです』と行って受け止められるのは、

いわゆる”強い”シングルキャリアウーマンぐらいである。

夫婦で来て告知をうけても、大抵夫が動揺して妻がそれをカバーして、、

というふうに外来では見えるが、実際はそんな夫が隣にいることで

妻も心理的に落ち着いていられる。

日本ではまだこのシステムは完全に稼働していないため、

複数の人での病状説明、また説明事項の記載、そして、癌専門看護師の配置など、

時間と労力をかけている。

外来での説明要旨の記載は結構時間をとるため、

レジデントや研修医にさせている病院も多い。

 

 

③作業の割り込み禁止マーク

 

”割り込み”とは、同僚からの質問や世間話や電話の応対や患者のコールなどの話である。

アメリカの病院の話だが、看護師が一種類の投薬を終えるまでに平均17回の”割り込み”が起こっていた。そのため、割り込み禁止ゾーンや割り込み禁止ウエアを作ったことだ。

 

いずれも看護師の業務についてのイノベーションの話で、医師についてはなかった。

医師のイノベーションは個々の病院の中で、

部長レベルで勝手に行われ、勝手になくなっていくからだ。

そして良いものがあっても病院の中で終わってしまう。

 

私がイギリスで見た、医師の良いシステムとしては、

医師に秘書をつけるというもので、

手術後の術式記載を全て録音し、それを秘書が全て書き出すといいうものだった。

書類の記載は以前は研修医の仕事であったが、

保険の書類が多すぎて、外来で夜を明かしたこともあった私の研修時代を考えると、

この時間をワシントンマニュアルの読書会に当てたかったくらいであり、

医療の高度化を叫ぶ一般市民が保険の書類記載を頼めば頼むほど、

私たちの仕事が増えていくというお粗末さであった。

(今もそんなに変わってない。

なぜなら書類仕事がなくなったら、

今度はデータベースの入力が癌の専門施設には待っていたから)

 

こういうデータ処理は、個人情報に関わりなおかつ専門知識が必要なので、

人材が育ちにくいが、今後こういう分野でトレーニングされた人材が育てば、

日本の医療は明らかに変わると思う。

 

 

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IDEO流医療サービスのイノベーション 現場に改善のヒントあり | ルー・マクレアリー | 2012年9月号|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー